のこり染、価値ある色彩 多消費産業、省エネに挑む
SDGs岐阜 艶金(大垣市)
「布を一から作れるってすごいよね」。軍手を着けた参加者が汗を拭い、30センチほどに伸びた畑の和綿を見つめる。7月下旬、大垣市大外羽のOKB農場。およそ20人が1、2時間かけて、和綿畑の手入れや夏野菜の収穫に汗を流した。
染色加工の艶金(大垣市)が県や大垣共立銀行と一緒に取り組む親子向けの体験教室だ。服や食べ物のルーツを学ぶ通年プログラムで、この日は2回目。秋には収穫し、糸を紡いで織物に仕立てるという。
「出来上がるまでの手間を知れば、簡単に捨てたり好き嫌いを言ったりできなくなるでしょう」。参加者と一緒に草取りをしていた艶金の墨勇志社長(60)が優しくほほ笑んだ。
艶金は、食品を生産する過程で出る食材の「残り」を生かした「のこり染」で知られる。ワイン醸造で出るブドウの搾りかす、剪定(せんてい)した桜の枝、こしあんを作った後の小豆の皮…。普通なら捨てられる残り物に価値を見いだし、優しく温かな色に染め上げる。2008年にスタートし、徐々に広がりを見せてきた。
19年11月には交流サイト(SNS)での発信がきっかけとなり、伊藤忠商事からメールが届いた。「コンバース社のスニーカーを染めませんか」。ブルーベリーの搾りかすで染める試みで、墨社長は「靴を染めたのは生まれて初めて」。新型コロナウイルス流行の影響もあってか時間はかかったが、今年4月に発売した。ネスレや日清紡とコーヒーかすで衣服を染める取り組みも行っている。
環境意識の高まりとともに、和綿栽培やのこり染など近年の取り組みが注目されているが、艶金は1987年、当時の染色業界では画期的だったバイオマスボイラーを導入。地元の建築廃材由来の木質チップを使い、染色過程で発生する熱の全てをまかなう「カーボンニュートラル」を実現している。
メーカーと共同で省エネタイプの染色機の開発・改良にも挑み、入れ替えを進めてきた。こうした取り組みをベースに昨年、自社の二酸化炭素排出量を2030年までに半減させる目標を立て、国際認証SBTを日本の染色会社で初めて取得した。
国内の繊維産業は事業所数、製品出荷額とも1991年から2015年までに約4分の1に減少。輸入品の浸透が進み、衣料品の購入単価や輸入単価は6割ほどに下落した。墨社長は「安くなるほど、捨てることに罪悪感がなくなる」と危惧する。
のこり染や和綿栽培など環境事業が売上高にもたらす効果は決して多くはないが、「水やエネルギーの多消費産業と言われる染色会社が(SDGsに)取り組む姿勢を発信し続けることに意味がある」と信じている。
【会社概要】1956年、愛知県一宮市で艶金化学繊維を設立。2010年に大垣工場に本社機能と生産を集約し、親会社から独立。衣料向け繊維生地の染色整理加工や繊維生地・製品の販売を手がける。2019年に「脱炭素宣言」、21年にSBT認証を取得。のこり染ブランド「KURAKIN(クラキン)」や在庫を利用したブランド「リトリコ」を展開。従業員数は約130人。22年1月期の売上高は約17億9千万円。
【2022.8.26岐阜新聞掲載】