愛車を福祉車両に改造 板金と鉄工所、技術の両輪

坪井自動車鈑金(大垣市安井町)の坪井英倖社長(47)

SDGs岐阜 坪井自動車鈑金(大垣市)

 車に取り付けたリフトに子どもが座ると、リモコン操作でつり上げられ、座席へと運ばれた。「空を飛んでるみたい!」。近くの小学校から福祉車両の見学にやってきた児童の無邪気な姿に、受け入れた坪井自動車鈑金(大垣市安井町)の坪井英倖社長(47)も思わず笑みを浮かべた。 障害の有無や年齢にかかわらず、自分が好きな車に乗りたい、乗り慣れた車を使い続けたい…。そんな声に応えるため、一般車両に専門機器を取り付け、福祉車両へと改造している。坪井社長は「乗りたい車に乗ってほしい。国産車でも輸入車でも対応できるのが強み」と胸を張る。

坪井自動車鈑金(大垣市安井町)の坪井英倖社長(47)

足が不自由な人のために取り付ける手動ブレーキのレバーは、位置や角度、長さなど要望に応じて自由自在だ。電動でドア側に回転し、車いすから乗り込みやすい運転席、車いすをつり上げて車内に収納するクレーンなど、多様な装置を利用者や車種ごとにアレンジして取り付ける。

 児童が体験したのは、機器を後付けしたデモカー。同社は機器や車種の異なる4台のデモカーを用意し、利用者は実際に触れて使い心地を確かめることができる。

 福祉車両への挑戦を支えたのは、同社のある“特徴”だ。同社は60年以上にわたり事故修理の板金を手がけるが、市内の別の場所に鉄工所も持ち、エレベーター部品の製造を請け負っている。自動車の高度化や少子高齢化で交通事故は減少し、板金修理の需要も落ち込む中、他社との差別化を探っていた坪井社長が「うちには板金修理と鉄工所の二つの強みがある」と気付いた。

福祉車両の見学にやってきた児童

そこで福祉車両の改造を専門に扱うオフィス清水(東京)から直接指導を受けて県内唯一の認定工場としてのお墨付きも得た。日本福祉車輌協会の福祉車輌取扱士などの資格も取得。鉄工所で鍛えた技術や設備を生かし、4年前に改造事業を立ち上げ、多様なニーズに柔軟に応える体制を整えた。

 「誰も置き去りにしない」というまなざしは、社内にも向けられる。残業はなく急な休み要望にも対応。社員とバーベキューをしたり、無線操縦の車を作って遊んだりして交流を深める。板金現場では、環境にも人体にも優しい水性の輸入塗料を使用。高性能のプラスチック溶接機を使うことで部品の交換や廃棄を減らし、可能な限り修理での対応を心がける。 「地球を守ろうとか難しいことを言っているわけじゃない。働く環境を良くしようとか、使えるものはリサイクルしようとか、そのくらいでいい。具体的な目標を定めることで、皆が同じ方向を向いて取り組めるようになる」

【会社概要】1958年、大垣市南高橋町で自動車修理業として設立、3年後に現在地に移転した。67年、大垣市古宮町にエレベーター部門の加工工場設置。2016年から福祉車両への改造事業に取り組む。22年10月期の売上高は約1億5千万円。従業員数は20人(役員含む)。

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