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東白川村「森林レンタル」好評/観光施設、次々開設

【2023年05月28日(日) 岐阜新聞 朝刊】

 「いま採ったタラの芽だよ」。加茂郡東白川村神土の森。愛知県春日井市の会社員広瀬賢二さん(55)が家族や友人らと6人で、揚げたての山菜の天ぷらを囲みながら、談笑してくつろぐ。レンガやブロックを積み上げたかまどや、木々にロープを張って取り付けた雨除けのシート、居心地が良くなるよう工夫を凝らし秘密基地のよう。土地所有者かと思いきや、「森林をレンタルしてます」。
 森林レンタルは、地元で林業と製材業を営む山共(田口房国社長)が生み出した。東濃桧(ひのき)の産地である村の山林を自然な状態のままキャンプ用に年間契約で借りることができるサービスで、コロナ禍の2020年から開始した。1区画は平均約千平方メートル。1年間のレンタル料が村内の場合6万6千円で、村内77区画は全て貸し出し中だ。
 広瀬さんは自宅から約1時間40分かけて月に2、3度訪れる。「借り主以外は来ないし、隣の区画と離れていて気兼ねすることもない。ここで仲間もできた。値段が手頃なので10年間は継続したい」と満喫する。
 契約は1年更新で、更新率は90%と満足度は高い。6月下旬には、村内40区画で新規利用者を募集する予定だ。村での仕組みを全国8道府県に展開し、木材生産以外の森林の活用法として注目を集めている。

レンタルしている森林で、友人たちと料理を囲んで談笑する利用者=加茂郡東白川村神土(撮影・堀尚人)

レンタルしている森林で、友人たちと料理を囲んで談笑する利用者=加茂郡東白川村神土(撮影・堀尚人)

 村内にはここ数年、アウトドア初心者から熟練者まで通年で楽しめるリゾート施設も誕生した。テラスから森の絶景が一望できる山カフェ「クローチェシーズン2」が21年、グランピングとキャンプ施設「グランピークス」が22年に相次いでオープンした。傘下の会社が村内でキクラゲを生産している縁で、不動産事業などを展開する「エネテクホールディングス」(名古屋市)の子会社が運営する。
 カフェは、パンやベーグルが人気の愛知県一宮市の旗艦店の2号店で、年間利用者は約6万人。入店に待ち時間が発生することもあるが、利用者はその間、車で移動。美濃白川茶や朴葉(ほおば)ずしなど特産品を買い求めるため観光施設を訪れるという新たな旅の形も生まれた。夏から本格稼働するグランピークスと隣接しており、相乗効果が期待されている。

初夏の到来を告げる名物の「朴葉ずし」=同村越原、茶の里野菜村

初夏の到来を告げる名物の「朴葉ずし」=同村越原、茶の里野菜村

 コロナ下でも交流人口の拡大を図りつつ、村が狙うのは移住者の増加だ。村内で増える空き家を行政が直営で処分し、家財処分費も行政が負担する独自の仕組みを作り、「土地付きの空き家」を手頃な価格で売買する事業を19年から開始。4年間で31家族71人の移住者を受け入れた。本年度は新たに集落支援機構をスタートさせ、高齢化する地域コミュニティーの維持や農業振興、空き家の掘り起こしに力を入れる。
 フィンランドから村に移住した一家がいる。ヘルシンキ大の職員クヤンスー・ヨニさん(48)、妻みかさん(50)と子どもたちの家族5人だ。古民家での自給自足の暮らしに憧れ、「日本で住むなら国際空港まで車で2時間の山間地」の条件に合致した一つが東白川村だった。コロナ流行前から村と連絡を取り、感染拡大で渡航不可となって2年待ったが、「住みながら条件に合う家をじっくり探そう」と村の協力で仮住まいを借りることができ、昨年移住した。
 流ちょうな日本語が話せて山仕事もできるクヤンスーさんは、すぐに村民と打ち解けた。山林や土蔵付きの築100年の木造空き家を見つけ、家主と交渉し1年がかりで入手した。「中津川市に近く、不便なことはない。子どもたちも学校になじんだ。リニア中央新幹線が開通すれば東京まで2時間圏内」とクヤンスーさん。空き家を改築後に引っ越す計画で、「雰囲気はキープしたい。畑で野菜を作り、鶏やヤギを飼って自給自足の暮らしができたら」と夢を膨らませる。
(沢野都)

築100年ほどの古民家に移住を決めたフィンランド人クヤンスー・ヨニさんと妻みかさん=同村越原

築100年ほどの古民家に移住を決めたフィンランド人クヤンスー・ヨニさんと妻みかさん=同村越原

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